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048 画竜点睛を欠いた柳家小三治の「死神」（BS-TBS 2013年１月１日放送）(13-01-03)
「落語研究会 柳家小三治大全 上」（小学館 ２０１２年）付属冊子の
「小三治ひとり語り」（６８ページ）に、
＞＞何度も言いますけど、丸暗記嫌い。だから、「あなたの落語は聴くたんび
＞＞に違ってて面白い」と言われるのも、聴くたびに違う、つまりは、はっき
＞＞り覚えられないということなんですよ。だいたいこういうことを話すんだ
＞＞っていうことは、頭の中に入れてあるんですけど、話すたんびに違っちゃ
＞＞うんですね。
とありますが、小三治十八番の「死神」でも数々の音源で相違点が確認できま
す（表１）。最新音源である２０１２年１２月１３日ライヴ（１月１日ＢＳ－
ＴＢＳ放送「落語研究会番外編 柳家小三治一門会 」）の相違点は、最後の
ろうそく部屋でいきなり燃え尽きる寸前のろうそくが登場することです。何で
こんなに自分の寿命が短くなったのかという男の反問やこの噺の肝（主題）と
いうべき「あの壁のへこみのところにあるのが昨日までのおまえの寿命だ。お
まえは五千両という金に目がくらみ、自分の寿命と病人の寿命を取り替えたん
だ」という死神の一言を外したことで、「画竜点睛を欠く」結果となってしま
いました。この一言がないと、冒頭、おまえの寿命はまだ長いことを死神に伝
えられながら、ろうそくが燃え尽きそうになっている理由がわからないし、ま
た、因果応報という摂理が聴くものに突き刺さらない。
因みに、この公演の６日前の１２月７日横浜・関内ホールの「死神」では、
この一言の抜けはありませんが、風邪をひいた描写を抜かしてしまい、オチの
くしゃみの意味がわからない。風邪をひいていなくても、くしゃみはでますの
で、この抜けは致命的ではありませんが、金と寿命を取り替えたという死神の
ことばの抜けは、特に初めてこの噺を聴くものには、この噺の印象をかなり違
ったものにし、よく馴染んだものには、「小三治師匠、大丈夫ですか？」とい
う気持ちにさせます。
圓生も落語研究会ＤＶＤで、死神との出会い部分で「おまえはまだまだ寿命
がある」という一言を忘れて、終結部で男の「寿命はまだまだあると言ったじ
ゃないですか」ということばが嘘になっています（圓生百席ＣＤでは抜けな
し）。しかし、これも噺の根幹に関わる言い忘れではない。この圓生「死神」
は１９７６年７月２７日の第９９回落語研究会の音源ですが、この日の小三治
「宗論」が今回の大全・上に収められました。
小三治の「死神」のベスト口演と思う９２年鈴本音源には、圓生にはない数
々の工夫があります。①死神をおまえだけ見えるようにしてやった、②大宮番
頭に「お智恵」という言葉を連発させ、布団を回す「智恵」を引き出すように
し向けた、③千両箱をあとで届けるという形にして徹夜明けで居酒屋に向かっ
て、風邪をひく、④死神に風邪は万病の元で、おまえは風邪で死ぬと言わせる、
⑤風邪に起因するくしゃみでのオチ。
小三治師匠、圓生師匠を超える画竜点睛の完璧な「死神」を是非とも落語研
究会でご披露いただき、大全・下に収めてください。志ん朝師匠の落語研究会
全集でも、十八番は２席入っていました。今はただ、下の発売が少しでも遅延
することを祈っています。
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