038 八代目文楽　１９７１年７月２３日落語研究会「鰻の幇間」に絶句の兆候(11-10-05)

　　１９７１年８月３１日の第４２回落語研究会の「大仏餅」の高座で、「神谷
幸右衛門」の名前が出ず、絶句。「もう一度勉強し直して参ります」という名
文句を残して、文楽は深々とお辞儀をして高座をおりて、これが最後の舞台に
なったことは有名ですが^*、DVDで発売されているこの１ヶ月前の「鰻の幇間」
でも２カ所で絶句寸前の箇所があり、何とか凌いで落ちまで持っていったこと
はあまり知られていないのではないでしょうか。

　１番目は、騙される前に「易者がそう言ったよ。あなたはこの月の半ば頃に、
運勢は辰巳の方に当たっている」で「運勢は辰巳の方に当たっている」が出て
こない。２番目は、だまされて、猪口が揃ってないことを言い立てる箇所で、
酒屋と天ぷら屋のフレーズが抜け落ちて、おかしいと思ったのか、猪口をご覧
と繰り返すも、天ぷら屋の悪口だけで済ましています。

　以上の部分をカットしたのをMP3音声でお聞き下さい。１９７１年の問題の
部分に続いて、１９６３年全盛期のTBS録音を入れておきました。削りに削っ
て無駄な言葉や表現がないこの作品で、この２カ所のキズは非常に大きいので、
一瞬興ざめしますが、文楽特有の緩急強弱に関わる大きな流れに破綻はなく、
貴重な映像、記録であることは否定しません。それにしても、あの名人文楽も
限界だったと思う２カ所です。

*：川戸貞吉　落語大百科　第三巻　P.158-161 「大仏餅」　（冬青社　２００１年）

　　　　　　　　　　　　　

　　　　鰻の幇間　その１　　　　　　　鰻の幇間　その２