034 矢部達哉、クァルテットを語る（５）　
キャリアの最後はベートーヴェン作品１３１，１３２(11-01-04)

　 誰かが問題提起をしたら、ぼくはこういうことだと思うと言うと思うんです
けど、主観のぶつかりあいになるとまとまらないですね。最終的には書いてあ
ることがすべてだし、書いてあることがあってまとまらない場合にはそれぞれ
が主観を述べていくというのがあると思うんですけど、主観をいうというのは
勇気がいるんですね。それを否定されると音楽性の否定にもつながるんですよ。
なかなか人の主観を覆すというのも難しいし、だからそこがカルテットが面白
いところであるんですけど。ここ１０年くらいかけて主観をぶつけるようにな
ったんですけど、やっぱり知的財産って大事じゃないですか。人に言いたくな
いという自分の音楽性の根幹みたいなものがあって、それをみんなそれぞれが
持っているわけですね。それを小出しにしていた時代というのはやっぱり演奏
としても食い足らない部分があるんですよ。コンサートのあととかにこう思っ
ていたんだよ、と言われても、もう遅いよと。そういう反省をふまえて練習の
時にもお互いの知的財産というものをもったいぶらないで振りまこうという雰
囲気には最近なってきたんですね。血のつながってない人とうち解けるのは難
しいんですよ。自分たちのやっていることを信じているし、音楽における説得
力をお互いに感じてやっているのでそういうのが聴いている人に伝わるといい
なと思っています。ふたつともこのカルテットに会うと思っているんですね。
ボロディンとかチャイコフスキーとかは向いていない。

　 ５歳からヴァイオリンを始めてきて小学校の低学年の頃はプロ野球選手にな
りたいと思っていましたが、もっと野球の上手な子は一杯いるわけで、どうし
たって無理で、そのあと江藤先生に指揮者になりたいと言ったんですね。指揮
者なんてとんでもないと言われてヴァイオリンを続けてきてんですけど。オー
ケストラはやりがいを感じていますし、暫く続けたいと思っていますけど最終
的にキャリアの最後はカルテットで終わりたいというのは凄い強いんですね。
語弊はあるけど、例えばブラームスベートーヴェンのコンチェルトを何回も弾
いてきましたけどそれらの素晴らしいものを凌駕する密度の濃さというか深み
というものがベートーヴェンのカルテットには存在しているという気がして。
後期のカルテットというのは全く受け付けなくてぜんぜんわからない世界だっ
たんですけど百聞は一見に如かず、百聞は一弾きに如かずでこんなに素晴らし
い音楽があるのかと思ってしまった。個人的なキャリアの最後はベートーヴェ
ン作品１３１とか１３２とかを弾いてを終えたい。いつのことかわからないで
すが、その準備段階として今こうしてカルテットを積み重ねていきたいなとい
う気持ちがありますね。アルティは本当に大切なカルテットで、みんな尊敬し
ているし大好きだし、こういうメンバーとはもう出会えないかと思っているん
です。どういう形でも継続していかなければと思っているんですけど世の中の
流れとしてカルテットというのはお客さんを呼ぶのが難しくて、でも大切だし
素晴らしい曲が多いからカルテットは絶対続けていこうと思っていますのでど
うぞよろしくお願いします。

　 ここまで矢部さんのお話を聞いてきて、以下の感想を述べました。

　２００８年９月１３日、大野さんの指揮で矢部さんソロの「英雄の生涯」、
凄く感動しました。オケとかオペラで研鑽格闘してきたそういう人が初めてベ
ートーヴェン後期やって深みが出るんで最近のぽっと出の若いカルテットとい
うのはオケやってないですよ。矢部さんは２１歳で都響のコンマスになった。
アルバンベルクＱ（ＡＢＱ）のピヒラーもＶＰＯのコンマスに２１歳で就任し
ましたが、ＶＰＯやって飽き足らなくてＡＢＱ３７年やってあれだけの世界を
作ったんです。都響の矢部さんも素晴らしいですけど、ＡＢＱのピヒラーに倣
って、都響のコンマスを擲って日本のＡＢＱになって頂きたい。オケやソロで
研鑽を積んだアルティは、ぽっと出の若手と質が違う。アルティこそ、ドヴォ
ルザーク１３番やラズモ２番の本当のいい味が出せると確信しています。

　初めてそういうことを言って頂いて非常に感激しております。日常的にカル
テットができたらというのが夢でもあるんですけど、これだけの個性の人達と
日夜時間をともにするとたぶん箸の上げ下げさえむかついて、それがやっぱり
問題でそれを克服しないといけないですけど、いろんなところでいろんな活動
をしてそれであわせるということで相乗効果があると思うのでカルテットに絞
らないでやっていき、ゆくゆくは独立できたらという気持ちはあります。


参考ＵＲＬ：クァルテットの“凄さ”を知っていますか？
クァルテットの“凄さ”を知っていますか？
ひのまどか（音楽作家）×矢部達哉（ヴァイオリン　アルティ弦楽四重奏団）
公開対談　2010年10月31日(日)15:00